大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

静岡地方裁判所 昭和43年(ワ)584号 判決 1976年7月22日

東京都品川区西五反田三丁目二番一三号

原告 国鉄動力車労働組合

右代表者中央執行委員長 富田一朗

静岡県伊東市湯川六丁目六八六番の一

原告 堀武雄

右両名訴訟代理人弁護士 大蔵敏彦

同 雪入益見

東京都千代田区丸の内一丁目六番五号

被告 日本国有鉄道

右代表者総裁 高木文雄

右訴訟代理人弁護士 鵜沢勝義

右訴訟復代理人弁護士 鵜沢秀行

右代理人職員 栗田啓二

<ほか五名>

主文

原告国鉄動力車労働組合の訴を却下する。

原告堀武雄の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  原告らと被告との間において、原告堀武雄と被告との間に、期間の定めのない雇用契約関係の存在することを確認する。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決

二  被告

(本案前について)

1 原告国鉄動力車労働組合の訴は、これを却下する。

2 却下された部分の訴訟費用は、同原告の負担とする。

との判決

(本案について)

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  被告日本国有鉄道(以下被告または国鉄という。)は、日本国有鉄道法(以下国鉄法という。)に基づいて設立された公共企業体で鉄道事業等を営むもの、原告国鉄動力車労働組合(以下原告組合または動労という。)は、被告の職員らをもって組織する労働組合であり、原告堀武雄(以下原告堀という。)は被告に雇用された職員であって、原告組合の静岡地方本部(以下静岡地本という。)執行委員長の地位にあるものである。

(二)  被告は、昭和四三年一〇月二八日公共企業体等労働関係法(以下公労法という。)一八条により原告堀を解雇したとして、同原告と被告との間の雇用関係の存在を争っている。

(三)  よって、原告らは被告に対し、原告堀と被告との間の雇傭関係の存在の確認を求める。

≪以下事実省略≫

理由

(本案前について)

まず、原告組合の当事者適格について判断する。

本件訴は、被告と原告堀との間に、雇用契約関係の存在することの確認を求めるものにほかならないから、その法律関係につき処分権を有しない原告組合は、特段の事由のない限り、訴訟追行権を有しないものというべきである(最高裁判所昭和二七年四月二日大法廷決定、同裁判所昭和三五年一〇月二一日第二小法廷判決参照)。

しかるところ、原告らは、原告組合に訴訟追行権のあることを認めるべき特段の事由について、何らの主張もしないから、原告組合に当事者適格を認めることはできないものというべく、原告組合の訴は、この点において不適法として却下を免れない。(なお、≪証拠省略≫によれば、原告組合の規約一二条に、「組合は、組合員と日本国有鉄道またはその他の第三者との間の訴訟、調停、申立、申請、その他一切の裁判上の係争について、組合員の利益擁護のため、組合の名において、組合員の権利を行使することができる。」との規定があることが認められる。一般に、労働組合としては、組合員の利益を擁護し、延いてはその団結を維持強化するため、組合の統制力を使用者と組合員との雇用契約上の権利関係に関する訴訟の場面にまで及ばせるべく、組合規約に右のような規定を設けて包括的な訴訟信託を受けたうえ、組合員にとっても有利な訴訟追行をしたいのであろうが、しかし、その訴訟は使用者と組合員との間の雇用契約上の権利関係を終局的に確定させるものであるところ、労働組合に右のような包括的訴訟信託による訴訟追行権を認めたとしても、その訴訟において組合員にとって結果的にみれば不利な訴訟追行をして敗訴する場合もあるであろうし、あるいは組合員の真意にそわないような和解を成立させてしまうことなども考えられないではなく、組合員にとって不利益な結果に終る可能性の存在も否定することができないのである。いうまでもなく、雇用契約関係の当事者は、使用者と組合員にほかならず、労働組合はその当事者ではない。したがって、使用者と組合員との間の雇用契約上の権利関係を終局的に確定させることを目的とする訴訟においては、その訴訟追行権をその使用者と組合員とに委ねるのが相当であり、労働組合が組合規約をもって、右のような包括的訴訟信託の規定を設けたとしても、その効力を認めるべきではなく、これをもって右特段の事由が存するものとするのは相当でない。)

(本案について)

第一雇用関係の存在と解雇の意思表示

原告堀は、被告に雇用された職員であったところ、昭和四三年一〇月二八日、動労が同年九月一五日から同月一九日にかけて、浜松機関区において、ダイヤ改正に伴う線路見習に反対し、また同年九月一九日から同月二〇日にかけて、沼津、静岡及び浜松地区において、いわゆる九・二〇闘争を実施したことにつき、動労静岡地本執行委員長として、被告の警告を無視し、同役員をして右闘争の指導に当らせると共に、自らも右闘争を計画、実施した総責任者であるとして、公労法一七条一項、一八条により解雇の意思表示をされたことは、当事者間に争いがない。

第二本件闘争の実状等

一  原告組合の組織等

≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。

原告組合は、国鉄の動力車に関係のある者で組織され、中央本部(中央執行委員会で構成する。)、地方本部(各鉄道管理局及びこれに準ずる範囲毎に設ける。)、支部(機関区、電車区、気動車区、運転所、運転区、その他動力車に関係ある業務機関毎に設ける。)、地方評議会(支社相当地域に設け、その地域における対応機関との団体交渉の単位とし、地方本部間の統制及び連絡調整を行う。)等の組織をもち、中央機関として、大会(最高決議機関で、代議員及び中央本部役員で構成する。)、中央委員会(大会に次ぐ決議機関で、中央委員及び中央本部役員(会計監査員を除く。)で構成する。)、中央執行委員会(中央本部役員(会計監査員を除く。)で構成し、大会または中央委員会の決議を執行するほか、緊急事項の処理等をする。)があり、地方本部の機関として、地方本部大会、地方本部委員会、地方本部執行委員会がある。また、紛争を生じて不測の事態が予測されるときは、大会または中央委員会の決議により、その都度中央闘争委員会が設けられる。中央闘争委員会は、闘争期間中、中央執行委員会の闘争に関する権限の委譲を受け、大会または中央委員会の決議の範囲内で闘争手段を決定し、中央闘争委員長がこれを組合員に指令する。この場合、組合員はその指令に従う義務を負う。組合に加入する者は、定められた加入届を中央執行委員長に届出て、組合員名簿に登録される。組合を脱退する者は書面をもってその理由を明らかにして支部、地方本部を通じ、中央執行委員長へ申出で、その承認を受ける。

二  本件闘争に至るまでの経緯

≪証拠省略≫によれば、次の(一)及び(二)の事実が認められる。

(一) 被告の近代化・合理化計画

被告は昭和三二年老朽施設の改善、輸送力の増強、輸送の近代化を三つの柱とする国鉄近代化・合理化第一次五か年計画を樹立して実施し、昭和三六年動力近代化、複線化、東海道新幹線建設を主柱とする第二次五か年計画を実施し、さらに昭和四〇年機械化・近代化を推進し新しい時代の鉄道にふさわしい国鉄に体質改善を図ることを目標とする第三次長期計画を実施した。

そして、被告は昭和四二年三月末に、「当面の機械化・近代化計画」(いわゆる「五万人合理化計画」)を各組合に提案したが、その基本的な骨子は、次のとおりであった。

① 動力方式、輸送方式、営業体制、車両設備の保守業務、間接部門、その他あらゆる部門にわたって機械化・近代化を推進し、明治以来の蒸気機関車中心時代から引継がれてきた在来の業務のやり方を抜本的に刷新する。これによって、一九世紀的な単線蒸気鉄道から二〇世紀にふさわしい複線無煙化鉄道へ、すなわち近代的輸送機関へ体質改善を図る。

② これを作業方式の面からみると、第三次計画の投資の成果を十二分に活用して、在来の人力依存型体制から機械・装置中心型体制に移行させる。

③ その結果、生み出される大量の要員は、まず、第三次計画前半の成果を国民に問う「四三・一〇ダイヤ改正」を中心とする輸送改善に必要な部面に振り向ける。同時に、近代化の成果配分の一環として、労働時間の短縮(週平均四六時間制から四四時間制への移行)を図り、そのために必要となる部面に、一部を振り向ける。

④ 人員整理は行わない。近代化をきっかけに、職員の能力を再開発し、近代化された職場にふさわしい職員を大量に育成する。その結果、従来より一層高度の職種につく職員が増加することになる。

⑤ 機械化・近代化は、とりもなおさず、作業環境、作業方式の改善となり、職員は在来の重労働や危険作業から順次解放される。

(二) 五万人合理化計画について被告と組合との交渉経過

五万人合理化計画のうち、労使間最大の焦点は、EL・DL(電気機関車・ディーゼル機関車)の一人乗務問題であった。

この交渉は当初から難航し、被告は昭和四二年三月提案以来各組合と延べ六六回(国労二二回、動労二五回、鉄労一九回)に及ぶ交渉を重ねたが、組合側は主として安全問題に固執して反対の態度をとり続けた。

これに対し、被告は、安全問題については、すでに労使間で取決めた協定(EC・DC(電車・ディーゼルカー)協定、新幹線乗務員数協定)の際に十分論議を尽し、すでに結論ずみであるとして、繰り返し説得を試み、当初計画した昭和四三年四月実施を繰り延べ、さらに同年六月実施をも延期し、諸外国におけるEL・DL一人乗務の実状、わが国私鉄の一人乗務、乗務員数と事故との関係などにつき詳細な資料をとりまとめ、直接に現場職員にこれを提供して、一人乗務の妥当性を訴え、一方では、一人乗務化により過剰となる助士の処置についても、原則として機関士に登用することを明らかにして職員の不安解消に努め、また一人乗務の際の労働条件改善についても組合側に提案して交渉の進展を図るべく努力したが、組合側はこれに納得せず昭和四二年一二月一五日、昭和四三年二月一日から同月一〇日まで、同年三月二日から同月二三日までの間に数次にわたる合理化反対闘争を実施した。

三  本件闘争の実状

(一) 本件闘争態勢の確立

≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。

原告組合は、昭和四三年五月二八日から同年六月一日にかけて、新潟市公会堂において、第二〇回定期全国大会を開催し、昭和四三年度の主要目標を五万人要員合理化粉砕、大幅賃上げ等におき、反復ストライキを含むあらゆる実力をもって、目的貫徹まで断固闘い抜く旨の基本方針を決定し、次いで同年八月一九日動力車会館において、第五七回臨時中央委員会を開催し、①同年九月九日から同月一二日まで、同月一七日から同月二〇日まで、同月二八日から一〇月一日までを、五万人要員合理化、四三・一〇ダイヤ改正粉砕を中心とする第六・七・八次全国統一行動として設定し、この期間に全乗務員の安全運転、全職場の安全作業、年休消化運動、業務切捨てを含む強力な遵法闘争と半日以上のストライキを配置し、全組合員が必ず一度は参加する文字どおり動労の命運をかけた闘いに突入する。②地方における四三・一〇ダイヤ改正にかかわる諸問題については、原則として助士廃止を撤回しない限り応じない立場で対処し、当局が業務命令などで一方強行の挙に出た場合には、すべての分野で非協力体制をとることは勿論、ねばり強い抗議行動を組織し、必要により強力な遵法闘争及び特認ストライキを配置するが、原則的には統一行動に組入れて高原的に闘いを展開する。③統一行動の具体的戦術及びストライキの指定地区は、全国代表者会議で決定する旨を決め、これをうけて同年八月二〇日動力車会館において開催された全国代表者会議において、①ビラはり、安全作業、安全運転、遵法闘争等を中心とする第六次全国統一行動(九月九日から一二日までの間)、②名古屋・北陸・福知山・米子の各地本を中心に関連する大阪・静岡・岡山の各地本の第四波全国統一 一二時間ストライキ(九月一二日)、③第六次統一行動をさらに強化した第七次統一行動(九月一七日から二〇日までの間)、④札幌・仙台・広島の各地本を中心に関連する青函・盛岡・高崎・新潟・水戸・岡山の各地本の第五波全国統一 一二時間以上ストライキ(九月二〇日)、⑤主要本線の地本(次回代表者会議で決める。)の第六波全国統一ストライキ(一〇月一日)の各具体的実施要領を決定した。

右実施要領によると、①遵法闘争は、運転中ATS警報の表示があったときは、必ず停車するといういわゆるATS行動も実施する。②第六次全国統一行動においては、ストライキ指定地本を除く全地本は、九月九日から一二日までの四日間、毎日全組合員一割の休暇請求消化運動を実施する。③第七次全国統一行動においては、ストライキ指定地本を除く全地本は、九月一七日から二〇日までの四日間、毎日全乗務員の一割の休暇を完全に消化する(この点は、後記のとおり九月二〇日に二割の休暇消化を集中して実施する旨変更された。)などとされていた。

そして、動労中央本部(中央闘争委員長)は、同年九月三日「①各地方本部は、全国代表者会議で確認した具体的実施要領に基づき、五万人要員合理化粉砕を中心とする第六次全国統一行動を所定どおり実施すること。②第四波ストライキ指定各地方本部及び関連各地方本部は、所定どおりストライキ突入の準備態勢を確立すること。」との指令を、同年九月一一日「①名古屋・北陸・福知山・米子の各地方本部は、所定どおり反合理化第四波(九月一二日)ストライキに突入すること。②各地方本部は、第六次統一行動に伴う諸行動の実施について一層の強化を図ること。③各地方本部は現場長交渉などを通じて、当局がATS行動について一方的に違法行為と称する以上、自らの生命は勿論、乗客の生命と安全を守るためにいかなる処分があろうとも、行動を継続する態度を表明するとともに、速やかにATSの取扱いについて組合側と解釈の統一を図り、あわせてその結論がでるまでATS使用停止の突き上げを行うこと。④各地方本部は、ATS行動について一層の強化指導を図ること。⑤各級機関は、第四波ストライキを果敢に闘っている次の拠点支部に対して激電を集中すること。(ⅰ)名古屋地方本部関係では、名古屋、稲沢第一、稲沢第二、米原の各支部、(ⅱ)北陸地方本部関係では、敦賀第一、敦賀第二の各支部、(ⅲ)米子地方本部関係では米子、上井、鳥取の各支部、(ⅳ)福知山地方本部関係では、西舞鶴、福知山の各支部」との指令を、同年九月一二日「①各地方本部は第六次統一行動(第四波ストライキを含む。)を集約するので、諸行動の実施態勢を九月一二日一二時をもって解除すること。②各地方本部は、第五七回臨時中央委員会及び全国代表者会議で確認した第七次統一行動実施の準備態勢を確立すること。③札幌、仙台、広島地本は、九月二〇日半日以上のストライキ実施の態勢を確立すること。④各地方本部は、九月一三日から一六日までの間、全組合員が一回以上参加する籠城集会、小組班会議など徹底して開催し、第六次統一行動の成果と欠陥について討議を深めると同時に、組織の強化確立について意思統一を図ること、また、第七次統一行動実施についての戦術などについて徹底を期すること。」との指令を、同年九月一六日「①各地方本部、第七次統一行動期間中連続してビラはり、白墨書行動などを含む大衆行動を徹底して実施すること。②各地方本部は、九月一七日五時以降全組合員の安全作業及び全乗務員の安全運転行動を徹底して実施すること。特に、ATS行動については、第六次統一行動を上回る態勢を確立し対処すること。なお、東京、大阪の国電(通称下駄電)は、一八日始発より一九日二〇時までとするが、情勢によっては継続実施するので留意すること。③各地方本部は、全支部を三波に分割指定し、次のとおり入出区入換速度規制線路点検などを含む遵法闘争を完全に実施すること。(ⅰ)第一波遵法闘争は、一七日五時から二〇時までの間のうち一二時間、(ⅱ)第二波遵法闘争は、一八日五時から二〇時までの間のうち一二時間、(ⅲ)第三波遵法闘争は、一九日一二時から二〇日一二時までの二四時間、④各地方本部は、全職場で九月一八日時間外及び籠城集会を開き、①②③の諸行動実施状況について点検、中間総括を行い、一九日以降の諸行動実施の態勢を強化すること。⑤各地方本部(札幌、仙台、広島地本を除く。)は、九月一七日から一九日までの三日間、全組合員一割年休請求運動を第六次統一行動に準じて実施すること。⑥各地方本部(札幌、仙台、広島を除く。)は、九月二〇日全乗務員を対象に職名別、車種別、業務部門別に二割の休暇消化闘争を完全に実施すること。(当局に年休を請求して承認しなくとも確実に休む。)非乗務員は、右⑤の取扱による。⑦各地方本部は、新検修体制の地方交渉などについては、地評の指導により対処すること。⑧各地方本部は、四三・一〇ダイヤ改正に関連する一切の業務関係(時刻表の書替えなど含む。)については完全に拒否すること。⑨各級機関は、次の九・二〇ストライキ指定支部に対して激励の電報などを集中すること。(ⅰ)札幌地本関係では、倶知安、小樽築港、伊達紋別、鷲別、室蘭の各支部、(ⅱ)仙台地本関係では、福島、会津若松、郡山の各支部、(ⅲ)広島地本関係では、広島機関区、広島運転所、岩国、柳井、徳山の各支部」との指令を、同年九月一八日「①各地方本部は、助士問題に対するマスコミについては、調査委員会の問題を取り上げているが、動労の方針は、助士廃止の提案を白紙撤回しない以上、応じない態度であるので、全組合員に徹底すること。②各地方本部は安全研究専門問題をからめても、極めて厳しい中央情勢の上に立って、現在実施中の諸行動を点検し、徹底的に打撃を与える指導を強化すること。」との指令を、同年九月一九日「①東京、大阪の各地方本部は、本日二〇時をもって集約する予定であった国電(通秋下駄電)関係ATS行動についても、別に指示するまで継続強化実施すること。②各地方本部は、所定どおり各種の諸行動について、一層の強化を図ること。」との指令をそれぞれ傘下の各地方本部に次々と発した。

原告堀は、前記第二〇回定期全国大会に代議員として、第五七回臨時中央委員会に中央委員としてそれぞれ出席したが、原告堀を執行委員長とする原告組合静岡地本は、中央本部(中央闘争委員長)より同年七月二三日発せられた「各地方本部は、各級機関(地本・支部大会・分科委員会など)の開催を通じ、闘争態勢の強化確立を図ること。」との指令に基づき、同年八月二日、三日、四日の三日間静岡市労政会館において、第一八回定期地方大会を開催し、第二〇回定期全国大会の方針どおり闘いを進めることを確認し、①五万人要員合理化粉砕に総ての焦点を合わせ、これと結合させて闘いを進めて行く。②四三・一〇ダイヤ改正に関し、一切の協力を拒否する。③ロングラン等については、関係地本と連絡を密にして対処する等の運動方針を決め、同月四日原告堀を闘争委員長とする地方本部闘争委員会を発足させた。そして、動労静岡地本は、第五七回臨時中央委員会及び全国代表者会議の決定に基づき、地本闘争委員長の招集により同月二二日静岡市労済会館において、第一回支部代表者会議を開催し、①第六次全国統一行動期間(九月九日から一二日までの間)においては、従来の安全運転に加えてATSの取扱いを戦術として入れ、ATSの警報が表示したら直ちに停車する。また、各支部で四日間の割当表を作成して年休一割請求運動を実施する。②第七次全国統一行動期間(九月一七日から二〇日までの間)においては、各支部で四日間の割当表を作成して年休一割消化を実施する等を確認し、さらに同年九月一四日地方本部別館において開催された第二回支部代表者会議において、①ロングラン線見等を当局が強行実施したときは、該当組合員は業務命令を拒否する。その時点でATS行動も実施する。②中央本部の計画の変更に伴い、年休消化行動については、二割を九月二〇日に集中して実施する等を確認した。

そして、原告堀を闘争委員長とする地本闘争委員会は、右第二回支部代表者会議終了後、直ちに、第五回地本闘争委員会を開催し、①第七次全国統一行動については、支部代表者会議の確認どおり実施する。②年休消化は、二割を九月二〇日に集中して実施する。③ATS行動については、第七次統一行動期間中にする等を決定し、翌一五日原告堀は、地本闘争委員長として、傘下の各支部執行委員長宛に右決定事項を指令した。

(二) 本件闘争の実施とその結果

1 線見拒否闘争

イ 線見拒否闘争突入に至る経緯

≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。

被告静岡鉄道管理局は、昭和四三年七月一七日、同年一〇月ダイヤ改正(四三・一〇ダイヤ改正)の機会に、浜松駅・稲沢駅間の貨物列車運転を、浜松駅・米原操車場間の貨物列車運転に変更する計画を原告組合静岡地本に提示した。これに対し、動労静岡地本は、浜松駅・米原操車場間の貨物列車運転が機関士二人乗務を必要とするロングランであり、労働条件が改悪され、かつ運転保安上にも問題があるとして反対の意思表示をし、当局側と交渉を進めてきたが、当局側は、被告と原告組合との間に昭和三六年七月三一日締結された「動力車乗務員の一継続最高乗務キロ及び同時間に関する協定」によれば、電気機関車によって牽引される貨物列車の第一制限キロは一六五キロ、第二制限キロは二〇五キロであるところ、浜松駅・稲沢駅間は一二〇キロ、稲沢駅・米原操車場間は六九・九キロであるから、浜松駅・米原操車場間は一八九・九キロとなり、これは右協定の第一制限キロを超えるが、第二制限キロの範囲内であるから、右貨物列車の乗務キロ延長は右協定に違反するものでないとして、昭和四三年九月七日動労静岡地本に対し稲沢駅・米原操車場間の線路見習の実施方法を提案し、同月七日、九日、一三日、一四日、一五日と交渉を重ねたが、意見対立のまゝ妥結点を見出せなかったため、当局は同年一〇月一日のダイヤ改正までに約二〇ないし三〇名の乗務員に線路見習をさせなければならない立場上、同年九月一五日午後一時過ぎころ交渉を決裂とし線路見習を同日より実施する旨を動労静岡地本に通告した。そこで、動労静岡地本は中央本部の指令に基づき、同日公共企業体等労働委員会名古屋地方調停委員会に対し稲沢駅・米原操車場間の線路見習実施をめぐる紛争に関するあっせん申請をするとともに、傘下の各支部執行委員長宛に、①指導員に対し、線見の業務命令が出たときは、直ちに支部に連絡し、支部役員立会のうえ業務命令を拒否し、線見以外の仕事を行う。②指導員以外の該当者に線見の業務命令が出たときは、直ちに支部に連絡し、これを拒否し、可能な限り年休で処理する。③当局が線見を強行実施したときは、実施時点で遵法闘争としてATS警報表示に伴う停車の取扱いを実施する旨の指令を発した。

ロ 線見拒否闘争の実施

≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。

① 原告組合静岡地本は、昭和四三年九月一五日午後一時過ぎころ、被告静岡鉄道管理局より、同日から前記線見を実施する旨の通告を受けるや、動労静岡地本青年部副部長鈴木昌身と同地本浜松支部副委員長鈴木源太郎とが、同日午後二時ころから約一時間、当日の線見該当の指導員二名(国労組合員・動労組合員各一名)のうち、動労所属の指導員に対し、線見拒否の説得活動をしたが、同指導員は国労所属の指導員(国労は、すでに線見実施を了解していたので、国労組合員による説得は行われなかった。)と共に、予定どおり線見を実施した。

② そのようなことから、急遽、動労静岡地本は動員態勢をとり、翌一六日には、約二、三〇名を動員し、同日の線見該当者二名のうち、動労所属の指導員鈴木良明に対し、浜松機関区乗務員詰所付近において、同指導員を取り囲み、動労の指令に従い線見を思いとどまるよう執拗に説得を続けたものの、同指導員から、指導員間の約束があるので、その約束を破ることはできないと拒絶された。しかし、なおも、あきらめずに、米原操車場において、約一〇名の動員者をもって同指導員に対し説得工作を続けたが、功を奏するに至らなかった。

③ そこで、動労静岡地本は翌一七日には約四〇名を動員し、同日の線見該当者二名のうち、動労所属の指導員金子彦治に対し、前記浜松機関区乗務員詰所付近において線見拒否の説得をしたが、同指導員はやはり指導員間の打合せがあるからと拒絶し、さらに米原操車場における説得をも拒絶して、予定どおり線見を実施した。

しかし、同日線見該当の一般乗務員である動労所属電気機関士鈴木俊男は、動労の指令に従い、前日の一六日当直助役に対し、「組合の指示によって、線見は参加できませんから、休暇にして下さい。もし、休暇がだめならば、ほかの仕事に振り替えてもらいたい。」旨の申出をしておき、翌一七日出勤して当直助役の前に出頭したが、前日線見参加拒否を申出てあったため、不参扱いとなった。

④ 同月一八日の線見該当者三名は、いずれも動労所属の組合員であったが、このうち一般乗務員の電気機関士竹山玉男は、動労の要請どおり、その前日の一七日当直助役に対し年休を請求し、同助役の返答のないまゝ一八日は休んだので、不参扱いとなった。

そして、同一八日動労静岡地本の動員者による線見拒否の説得活動は激しさを加え、残る二名のうち指導員青野専一に対し、前記浜松機関区乗務員詰所付近において説得活動をした結果、一度は同指導員をして動労の指令に従うとの意思表明をさせることに成功したが、同指導員は浜松機関区長関塚邦夫らからの線見に参加するようにとの説得で翻意し、動労の眼をのがれて浜松駅構内の輸送本部に身を隠していた同日の線見該当電気機関士鈴木与士雄と共に、線見に参加すべく、静岡鉄道管理局総務部人事課から現地に派遣されていた三木正雄の護送の下に新幹線列車で名古屋に赴き、同所から線見行路第二五三三M列車で稲沢駅に到着するや、名古屋・静岡両地本の動労組合員約三〇名により線見拒否の説得活動を受けた。そして、右鈴木与士雄は当日健康状態がすぐれず、同日午後五時四〇分ころ身体の苦痛を訴えたので、同人については、線見を中止した。また、右青野専一指導員は動労による説得を押し切って米原操車場まで線見を実施したものの、同操車場において、待機していた動労静岡地本の組合員約一〇名に取り囲まれ、執拗な線見拒否の説得を受けた結果、動労の指令に従う旨の意思表示をして線見を途中で拒否した。

ハ その後の経過

≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。

同年九月一九日、浜松機関区は、同月二〇日動労の二割休暇闘争が予定されているし、稲沢・米原間の線見の重要性につき同機関区員の認識を徹底させる必要もあったため、同月一九日から同月二三日まで線見の一時中止を被告静岡鉄道管理局に上申し、同局よりそれを認可されたので、同期間線見を中止した。

これより先、同月一五日動労静岡地本より公共企業体等労働委員会名古屋地方調停委員会に出されていた前記あっせん申請に基づき、同委員会は同月一七日柏木・織田両公益委員をあっせん員に指名し、同委員が直ちにあっせんに着手し、「本件については、なお話合いの余地があるものと思われるので、早急に了解点に達するよう当事者双方で誠意をもって解決を図られたい。」旨のあっせん案を動労静岡地本、被告静岡鉄道管理局の双方に提示したところ、双方ともこれを受諾し、あっせんが成立した。これに基づき、同月二四日被告静岡鉄道管理局は動労静岡地本と交渉をもったが、席上動労静岡地本が当局の線見一方実施につき鋭く追及し、「当局より何らかの意思表示のない限り、線見の交渉に入るわけにはいかない。」旨主張したため、「九月一五日時点においての将来展望についての見透しに甘さがあり、職員の間に感情の上でしこりを残したことについて誠に遺憾であった。」旨の表明をし、交渉の結果、動労静岡地本より同月二四日からの線見実施につき了承を得ることができ、同日から線見を実施した。その結果、同年一〇月一日のダイヤ改正には、何らの支障も生じさせずにすんだ。

2 ATS闘争

イ ATS闘争の戦術内容

≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。

前記第二、三、(一)認定のとおり、動労静岡地本が第五七回臨時中央委員会及び全国代表者会議の決定に基づき、第一回支部代表者会議において、本件闘争に取り入れたATS闘争の戦術内容は、次のとおりである。

ATS(Automatic Train Stop)とは、機関士の行う信号注視を確実に実行させるため、車内に警報を表示するとともに、必要に応じて自動的に非常ブレーキを行い、列車を停止させる装置をいう(運転取扱基準規程三条別表第一の一一二)。すなわち、ATSは機関士が万一信号を見落したり、居眠りをしたりして停止信号(赤)を冒進したような場合、重大な事故を招くことが考えられるので、このような事故を防ぐために取り付けられたものであり、列車が停止信号の手前の一定地点まで達すると、赤ランプが点灯するとともに運転台のベルが鳴り、機関士の注意を喚起するのであるが、もしも、このとき機関士が居眠りなどによって、正常なブレーキ操作をせず、確認ボタンを押さないで、そのまゝ放置すると、五秒後には非常ブレーキがかかって急停止させる機能をもっている。

右のとおり、列車が停止信号をあらわす信号機の手前のある定まった地点の警報点にくると、運転台にあるATSに赤ランプがつき、警報ベルがなり、機関士に警報を与え、信号確認・前途確認・前途の注意の意識を高めさせるわけであるが、このとき機関士は停止信号に近づきつつあることを意識してブレーキ操作を行い、同時に、ATSの確認ボタンを押す。この一連の操作を「確認扱い」という。ATSの警報が発せられてから五秒の間に機関士が何もせず、そのまゝ放置しておくと、つまり「確認扱い」をしないでいると、自動的に非常ブレーキが作動して、列車は緊急停車するわけである。したがって、この五秒の間に機関士は、停止信号に近づきつつあることを意識して「確認扱い」をして手動操作による常用ブレーキで列車を停止信号の手前に停車させる。「確認扱い」を行えば、赤ランプは消え、警報ベルは止まり、非常ブレーキは自動的に作動しなくなるのである。そこで、機関士に停止信号への意識を持続させるためにチャイムが鳴りつづけられる仕組みになっている。

ところで、国鉄の信号機には、①駅から発車してよいかどうかを示す信号機として、駅の出口に設けられている出発信号機、②駅と駅との間に、先に発車していった列車との間隔をあらわすための信号機として、閉そく信号機、③駅に入ってよいかどうかを示す信号機として、場内信号機と三種類の信号機がある。そして、ATSの警報を発する点(警報点)は、それぞれの信号機の手前のある距離をへだてた点(三〇〇ないし八〇〇メートル位手前の点)と、主な駅の出発信号機や場内信号機のすぐ近くの点(二〇メートル位手前の点)とがある。普通、前者の警報点を「ロングの警報点」といゝ、これはATSの基本となるものであり、後者の警報点を「直下の警報点」といゝ、これは後記③のとおり、特別のところに設けられている。

そして、ATSの取扱いは、信号機の種類と警報点の位置により取扱いに若干の差がある。

① 閉そく信号機及び場内信号機のロングの警報点で警報があった場合の取扱い

この場合は、「確認扱い」を行い、停止信号の手前に列車を停止させる。もし、停止信号に近づいているときに信号が進行を指示する信号に変ったときは、信号の指示に従って、ブレーキをゆるめたりして列車の運転を続ける。

② 出発信号機のロングの警報点で警報があった場合の取扱い

大きな駅や単線区間の駅などでは、出発信号機を停止信号で列車を駅に進入させることがある。この場合は、列車が駅に進入の途中のロングの警報点でATSの警報がなるが、機関士は「確認扱い」をして出発信号機の手前の定められた停止位置に列車を停めることになっている。これは、定められた停止位置をはずれて停車すれば、停止位置をあわせるために再度移動させなければならないため、乗客の乗降に支障することが起るからである。

③ 場内信号機及び出発信号機の直下の警報点で警報があった場合の取扱い

主な駅では、駅に、列車が進入する線路や発車する線路がいくつかあり、線路の交差などがある。それに伴って、信号機もいくつかあるが、このような場合、他の線路の信号機を見て間違えて発車したりして大事故を起さないように、信号機のすぐ近くに特別の警報点を設けている。この直下の警報点でATSの警報があった場合は、停止信号をおかして運転中ということであるので、直ちに列車を停止させなければならない。

右のATSの取扱いに関しては、被告の制定した運転取扱基準規程(昭和三九年一二月運達第三三号昭和四三年二月二七日一部改正。以下本社基準規程という。)三六四条、三六五条があり、その規定の内容は、次のとおりである。

本社基準規程三六四条 機関士は、場内信号機又は出発信号機の箇所でATSの警報の表示(「ベル鳴動、赤色燈点燈」。第三六五条において同じ。)があったときは、直ちに列車を停止しなければならない。ただし、場内信号機又は出発信号機に対して進行手信号の現示があったときは、この限りでない。

本社基準規程三六五条 機関士は、場内信号機又は出発信号機の箇所以外でATSの警報の表示があったときは、信号機の停止信号に対するブレーキ手配をとった後でなければ、確認ボタンを押してはならない。ただし、信号機の使用停止した閉そく信号機に対する場合等は、ブレーキ手配にかかわらず、確認ボタンを押すことができる。

被告は、本社基準規程三六四条にいう「場内信号機又は出発信号機の箇所」とは、「場内信号機又は出発信号機の直下の警報点」を意味し、同条本文は、その直下の警報点でATSの警報の表示があったときは、直ちに列車を停止しなければならない旨を定めた規定であり、本社基準規程三六五条にいう「場内信号機又は出発信号機の箇所以外」とは、「場内信号機又は出発信号機の直下の警報点以外の警報点」つまり、「場内、出発、閉そくの各信号機のロングの警報点」を意味し、同条本文は、そのロングの警報点でATSの警報の表示があったときは、まずブレーキ手配をとってからでなければ、確認ボタンを押してはならない旨を規定したものと解釈すべきものであるとしていた。

これに対し、原告組合は、本社基準規程三六四条にいう「場内信号機又は出発信号機の箇所」とは、「場内信号機又は出発信号機の直下の警報点及びロングの警報点」を意味し、同条本文は場内信号機又は出発信号機の直下の警報点においては勿論、そのロングの警報点においても、ATSの警報の表示があったときは直ちに列車を停止しなければならない旨を定めた規定であると解釈し、この解釈に基づきATSを取扱えば、駅のホームに列車を進入させる際出発信号機のロングの警報点においてATSの警報の表示があった場合、直ちに列車を停止させることとなり、そうなれば、駅のホームの所定の停車位置よりかなり手前で列車を停止させ(駅のホームの途中か、ないしはホームにかからない位の辺りで列車を停止させ)、同条但書による進行の手信号の現示があるまでその場所に停車させたまゝにすることになるわけである。

ATS闘争の戦術内容は、右のように本社基準規程三六四条、三六五条について国鉄当局の解釈とは異なった動労独自の解釈をし、駅のホームに列車を進入させる際、出発信号機のロングの警報点でATSの警報の表示があった場合、前記②のような運転方法をとらず、つまり「確認扱い」をすることなく、直ちに列車を停止させることにより、駅のホームの途中ないしはホームにかからない辺りで列車を停止させるという、平常の運転方法とは異なった運転方法をとるものである。

ロ ATS闘争の突入に至る経緯

≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。

ATS闘争の戦術は、前記のとおり、原告組合が第五七回臨時中央委員会の決定に基づき昭和四三年八月二〇日開催された全国代表者会議において、第六次、第七次全国統一行動の具体的戦術等を決定した際とり入れられたものであるが、そこに至るまでには、次のような経緯があった。

被告運転局機関車課長・客貨車課長は、昭和四二年八月八日各支社・管理局に対し、「ATS(車上装置)警報時の取扱いについて」と題する左のような事務連絡を出した。

信号機の停止信号に対するATS(車上装置)の警報表示があったときのブレーキの取扱い及び確認ボタンの取扱いについては、次のとおり行うこととしたので、関係従業員に対し誤りのないよう指導されたい。

① 警報の表示のあったときは、ブレーキ操作を行った後に確認扱いを行い、必ず列車を停止させること。ただし、ブレーキ操作中に当該信号機の進行を指示する現示を認めたときは、減圧量または速度等の条件を附加して緩解してもよい。

(注) 前記の取扱いにより、列車が信号の現示を確認できない地点に停止したときは、当該信号機の信号現示の確認できる地点まで速度を規制して注意運転すること。

② 前記①の取扱いによると、運転上特に支障のある次の各号の場合には、ブレーキ弁ハンドルを重なり位置(電磁直通ブレーキにあっては、ブレーキ弁ハンドル角度三〇度以上の位置)で確認扱いをしてもよい。

(ⅰ) 所定の停止列車が停車場に進入する場合で、出発信号機の停止信号による警報の表示(直下を除く)があったとき。

(ⅱ) 手信号により列車を運転する場合で、進行手信号を確認したとき。

(ⅲ) 代用閉そく方式により列車を運転している場合で、閉そく信号機の警報の表示があったとき。

(ⅳ) 閉そく信号機の故障の旨、通告を受けた場合で、警報表示のあったとき。

(ⅴ) 引き出し困難と思われる上り勾配区間及びずい道内等で信号機の停止信号による警報の表示があったとき。ただし、この場合は区間または列車を指定し、速度を規制すること。

(ⅵ) ブレーキ後のブレーキ管に込めを行っているときで、込み不足のため直ちに減圧を行っても、ブレーキ効果が少ないと思われるとき。ただし、この場合は速やかに込めを終了させ、相当程度の込めができたら直ちにブレーキを行い、列車を停止させること。

(附記) 昭和四〇年四月七日機関車課長・客貨車課長による事務連絡「ATS(車上装置)の警報の表示があったときの取扱いについて」は、廃止する。

右昭和四二年八月八日事務連絡によると、「ATSの警報の表示があったときは、必ず列車を停止させる。ただし、所定の停止列車が停車場に進入する場合で、出発信号機のロングの警報点で警報の表示があったとき等は、確認扱いをしてもよい。」とされ、原則として、ATSの警報の表示があったときは、列車を停止させなければならないものとされていた。

しかし、被告は昭和四三年二月二七日前記本社基準規程三六四条、三六五条を前記のとおり改正したのに伴い、右昭和四二年八月八日事務連絡を廃止し、当時その旨を原告組合に通告し、以後前記被告の解釈に基づく運転指導をしてきた。

そのため、前記具体的戦術を決める全国代表者会議において、中央本部提案の実施要領に対する質疑のなかで特にATS戦術について論議が集中した。その質問の主な点は、①ATSを戦術的にとり入れる場合、個人の闘いになるため、消化、未消化の問題が発生する。同時に、これで闘えない地本がでては集中攻撃を受ける危険がある。②動労内部のアンバランスは克服できたとしても、この問題で国労との共闘ができるのか。③基準規程改正によりホームにさしかかった場合は、所定の停止位置まで移動することになっているが、その場合の取扱いはどうするか、などであった。これについて、動労中央本部側は、①最近の事故の多くは、ATS表示後、確認ボタンを押してから発生している。なぜ、そうなるかといえば、過密ダイヤなので解除して(確認ボタンを押して)走らなければ、ダイヤがズタズタになるからである。そこのところを認めないで解除して走ったから乗務員が悪い、といわれては乗務員の立つ瀬がない。したがって、今後は一切ATSの警報が表示されたら停ることにしたい。②国労とは、この会議の結論をもって十分趣旨の徹底を図る。③規程上の許容の問題は、動労中央本部と被告本社間でも団交を行ったが、要はATSの警報が表示されたら停るのが原則であり、許容の幅を縮めたのが、改正の趣旨になっている。さらにいえば、戦術としてとり上げたからには、規程上多少の問題があったとしても、断固やるべきである。との見解を示し、結局同会議においてATS戦術を今次闘争の重点としてとり上げることに決定した。

これに基づき、前記のとおり、動労静岡地本は、昭和四三年八月二二日開催された第一回支部代表者会議において、ATS戦術をとり入れること等を確認し、さらに同年九月一四日開催された第二回支部代表者会議において、ロングラン線見等を当局が強行実施したときは、該当組合員は業務命令を拒否し、その時点でATS戦術も実施すること等を確認し、原告堀を闘争委員長とする地本闘争委員会も右支部代表者会議の確認どおり実施する旨を決定し、同月一五日原告堀は地本闘争委員長として、傘下の各支部執行委員長宛にその旨を指令した。

そして、前記のとおり、同日被告静岡鉄道管理局が線見についての交渉を決裂とし、線見を一方実施するに及び、動労静岡地本は右指令どおり、ATS闘争に突入するに至った。

ハ ATS闘争の実施とその結果

≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。

動労静岡地本は、前記指令により昭和四三年九月一五日から沼津・静岡・浜松の各駅において、ATS闘争を実施し、「全地方本部は九月二〇日午前七時をもって、休暇消化及びATS行動などを含む一切の諸行動について速やかに集約すること。」との動労中央本部(中央闘争委員長)指令に基づく、動労静岡地本(地本闘争委員長)の中止指令により、同月二〇日ATS闘争をも中止したが、その間におけるATS闘争の実施状況は次のとおりである。

① 沼津駅

沼津駅においては、出発信号機のロングの警報点でATSの警報表示後、直ちに列車を停止させると、駅のホームの途中で停止することになるが、ATS行動の実施により駅のホームの途中で停止した列車及びこれを進行の手信号により所定の停止位置まで誘導した者は、次のとおりである。

(月日)  (列車) (列車誘導者)

九月一五日 三五〇二 予備助役杉山満

九月一七日  七二二 運転掛 村松敏雄

同日    二 予備助役飯田保

同日   二一 助役 鈴木勇

九月一八日   三六 運転掛 浅見高敏

同日    二   同人

九月一九日   二二 運転掛 熊谷仁

② 静岡駅

静岡駅においては、出発信号機のロングの警報点でATSの警報表示後、直ちに列車を停止させると、駅のホームにかかるか、かからない辺りで停止することになるが、ATS行動の実施によりその辺りで停止した列車及びこれを進行の手信号により所定の停止位置まで誘導した者は、次のとおりである。

(月日)  (列車) (列車誘導者)

九月一五日  一〇三 予備助役吉川一郎

九月一六日  一四三 同 山下武雄

同日   二二 助 役 小杉進

同日    六   同人

同日   四四 助 役 塚田四郎

同日   三四   同人

同日   三五 予備助役河井昭

同日   四五   同人

同日    一   同人

同日    三   同人

同日   二一   同人

九月一七日   四〇 助 役 塚田四郎

同日   二七 予備助役河井昭

同日   二六 助 役 塚田四郎

同日  九〇二   同人

同日  一四三 予備助役河井昭

同日 三〇四〇 助 役 塚田四郎

同日    六   同人

同日    四   同人

同日  七二一 予備助役河井昭

同日  七二二 助 役 塚田四郎

同日   四一 予備助役山下武雄

同日   三一   同人

同日   三四 助 役 鈴木照義

同日   三五 予備助役山下武雄

同日   四五   同人

同日    一   同人

同日    三   同人

同日   二一   同人

同日   二三   同人

九月一八日   二七   同人

同日  九〇一   同人

同日  九〇二 助 役 鈴木照義

同日   二八   同人

同日  一四三 予備助役山下武雄

同日  二〇二 助 役 鈴木照義

同日   二四   同人

同日   二二   同人

同日 三〇四〇   同人

同日    六 助 役 小杉進

同日    四   同人

同日   四四   同人

同日   三一 予備助役河井昭

同日 三〇三九   同人

同日   四五   同人

同日   四三   同人

同日    一   同人

同日    三   同人

同日   二一   同人

九月一九日   二七 予備助役河井昭

同日   四〇 助 役 小杉進

同日  一〇三 予備助役河井昭

同日  九〇二 助 役 小杉進

同日  一四三 予備助役河井昭

同日   二八 助 役 小杉進

同日  二〇二   同人

同日   二六   同人

同日   二四   同人

同日   二二   同人

同日  七二一 予備助役河井昭

同日   三一 同 山下武雄

同日   三三   同人

同日   三四 助 役 鈴木照義

同日    一 予備助役山下武雄

同日   二一   同人

九月二〇日   二七   同人

同日  一〇三   同人

同日  九〇二 助 役 鈴木照義

同日  一四三 予備助役山下武雄

同日   二六 助 役 鈴木照義

同日   二四   同人

同日   二二 助 役 小杉進

同日    四   同人

③ 浜松駅

浜松駅においては、出発信号機のロングの警報点でATSの警報表示後、直ちに列車を停止させると、列車の前二、三両が駅のホームにかかる辺りで停止することになるが、ATS行動の実施によりその辺りで停止した列車及びこれを進行の手信号により所定の停止位置まで誘導した者は、次のとおりである。

(月日)  (列車) (列車誘導者)

九月一六日   四一 運転掛 後藤彰

同日   四三 予備助役中野茂

同日   四五   同人

同日   一〇 運転掛 早川文雄

同日    九 助 役 美和昭登

同日  一四三 運転掛 高木正男

九月一七日 三〇四〇 運転掛朝比奈敬典

同日   一〇   同人

同日    八   同人

同日  一〇三 予備助役中野茂

同日  一四三   同人

同日   三三 予備助役岡本和夫

同日   三五   同人

同日   四五   同人

同日    九 助 役 鈴木二三夫

九月一八日  九〇二 助 役 増田辰夫

同日 三〇四〇   同人

同日   一〇   同人

同日  七二二   同人

同日  九〇一   同人

同日  一四三   同人

同日  七二一 運転掛 高木正男

同日   三五   同人

同日   四五   同人

九月一九日    八 運転掛 平川文雄

九月二〇日    八 同 朝比奈敬典

3 休暇闘争

≪証拠省略≫並びに前記第二、三、(一)に認定の事実によれば次の事実(ただし、ロ、(3)以下の事実を除く。)が認められる。

前記のとおり、第五七回臨時中央委員会及び全国代表者会議の決定に基づく、第一回、第二回支部代表者会議の確認を経て発せられた前記地本闘争指令により、動労静岡地本は、前記線見拒否闘争・ATS闘争のほか、昭和四三年九月一七日から二〇日までの間の第七次全国統一行動期間中、次のような休暇闘争を実施した。

イ 九月一七日から一九日までの間の闘争実施とその結果

九月一七日から同月一九日までの間、浜松機関区においては、次の者が無断欠勤または年休を請求し当局がこれを承認しないのに出勤しなかった。

(月日)      (不参者)

九月一七日 電気機関助士 西野昭

同日 電気機関士  杉田正夫

同日 電気機関助士 木下篤郎

同日 電気機関士  今田真事

同日 同      磯部信義

同日 電気機関助士 長野英治

同日 同      鈴木重之

九月一八日 電気機関士  杉田正夫

同日 電気機関助士 木下篤郎

同日 同      中村順一

同日 電気機関士  鈴木保男

同日 同      鈴木源太郎

九月一九日 電気機関助士 西野昭

同日 電気機関士  今田真事

同日 同      曽布川勝次

同日 同      杉山忠弘

その結果、九月一七日は、右のような不参者があったため、浜松から東静岡までの七七八列車と、東静岡から浜松までの三七八五列車の貨物列車二本が運休した。

ロ 九月二〇日闘争の実施

前記のとおり、動労中央本部の指令に基づく第二回支部代表者会議の確認を経て発せられた「九月二〇日に二割の年休消化を集中して実施する」旨の地本闘争指令により、同日動労静岡地本は二割休暇闘争を実施したが、その実施状況は次のとおりである。

(1) 不参者(無断欠勤または年休を請求し当局がこれを承認しないのに出勤しなかった者)

① 沼津機関区における不参者は、動力車乗務員(機関士・電気機関士・電気機関助士・電車運転士等をいう。以下同じ。)滝口仙蔵、伊藤勝美、真野文治、渡辺重夫、滝豊、秋山秀正、遠藤亘亮、江藤繁美の八名であった。

② 静岡運転所における不参者は、動力車乗務員佐野政司、鈴木宗史、土屋喬雄、亀山伝吉、長田富士男の五名であった。

③ 浜松機関区における不参者は、動力車乗務員松井弘行、埋田武郎、藤原康弼、水野敏己、渡辺一敏、藤田虎三、鈴木利春、河島忠幸、大塚一二、鈴木一雄、野田三郎、鈴木政義、遠山廣治、鈴木征勝、後藤誠生、中村半二、竹原繁男、渡辺久司、関口憲由、小池良一、松島周蔵、鈴木勉、横山良平、竹村利春、島津慎吾、雙松健次、木村治郎、佐野正平、小沢忠志、杉本彌一、岡本、鈴木忠、竹内貞平、近藤寿夫、雙松勇、渥美富士夫、池田長策、清水志津雄、江塚優、堀内正夫、松浦清治、山西重明、中島厳夫、赤堀三夫、前田典昭、伊藤一吉、土屋孝男、後藤昌則、佐藤浅治、清水武志、那須田行雄、鈴木保男の五二名であった。

(2) 一部欠務者(当局の承認を得ずに勤務の一部を欠いた者。ただし、後記(3)のピケを理由に乗務を拒否した者を除く。)

① 静岡運転所において、所定出勤時刻に出勤せず、または乗務を拒否した動力車乗務員は、大村浩司、宮下七治、吉永猛、増田良二、塩沢政昭、岩崎彦雄、岡村修司、村上久夫、藤井昭雄、遠藤恵士、川隅猛、森武治、戸塚利雄、川崎今雄、佐藤宣吉、杉山政治、桂田正男の一七名であった。

そのほか、電気機関士兼電車運転士前田信吉は、静岡運転所において、予備から一仕業に充当されるも乗務せず、乗務を拒否した。

② 浜松機関区においては、電気機関助士稲垣克己が予備から五仕業に充当されるも乗務せず、乗務を拒否した。

(3) ピケを理由に乗務を拒否した者

≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。

動労静岡地本沼津支部は、同年九月一九日沼津機関区の乗務員詰所に、「ホームで国労がピケを張っていれば乗務しない。」等と記載した書面を掲示しておいたが、翌二〇日沼津機関区当直助役室において、動労静岡地本の組合員である沼津機関区所属電気機関士吉川勲(二五列車関係)、浜松機関区所属電気機関士平野昌弘(三〇二九列車関係)、浜松機関区電気機関士大石末吉及び同機関区所属電気機関助士志村敏文(九〇一列車関係)、浜松機関区所属電気機関士石川茂吉及び同機関区電気機関助士西尾武(二〇五三列車関係)は、国労組合員によるピケを理由に乗務を拒否した。その際の状況は、およそ次のとおりである。

① 二五列車関係

同列車は、所定は沼津駅一九日午後一〇時二二分着で、乗務員交代のうえ同一〇時二四分発のところ、一時間四〇分遅れて翌二〇日午前零時二分ころ同駅に到着した。当時国労静岡地本は二〇日午前零時からストに入り、二五列車が同駅に到着したときには、国労の動員者約一〇〇名ないし三〇〇名位の集団が、同駅下りホームの同列車機関車附近に群がっていた。そこで、動労静岡地本沼津支部組合員小松守、同丸山功は、同駅で交代乗務すべき電気機関士吉川勲を同行し、二〇日午前零時三〇分ころ沼津機関区当直助役室に赴き、山田当直助役に対し、「本人は乗務の意思はあるが、国労のピケにより乗務できる状態ではないので、ピケを排除すれば、乗務する。」といい、同助役から、護送するから乗務するよう命じられたにもかかわらず、「現状では乗務できない。」といって、同機関区構内の動労沼津支部事務所に引揚げたので、同機関区関指導助役と佐藤運輸長付主席は、同支部事務所に赴き、関指導助役が長橋同支部執行委員長に対し、右吉川を解放し乗務させるよう通告したところ、同支部執行委員長がこれに同意したので、右吉川に乗務するよう促したところ、同人は「連中(組合員)に聞いてからにしたい。」といったため、附近にいた動労組合員七、八名が関指導助役と佐藤主席を取り囲み、「当局が国労の動員者を全部ホームから出さなければ、乗務員は出さない。」などといゝ、佐藤主席が「下りホームには、もういくらもいない。特に、二五列車機関車附近は、当局の対策要員と公安員が出動し、動員者は排除されているから危険はない。」旨説得したのに対し、「まだ、ホームには多数の動員者がいる。危険であるとともに、そばを通ると罵声を浴びせられるので、乗務員の精神状態が不安定となり、前途の運転ができない。」などといゝ、次第に騒然となってきたので、関指導助役と佐藤主席は同支部事務所を引揚げた。そして、当局は同日午前零時五四分ころ代替要員を乗込ませ同列車を所定より二時間三〇分遅れて発車させた。

② 三〇二九列車関係

同列車は、所定は沼津駅一九日午後一一時一八分着で、乗務員交代のうえ同一一時二〇分発のところ、一時間二分遅れて翌二〇日午前零時二〇分ころ同駅に到着した。前記のとおり、当時国労静岡地本は二〇日午前零時からストに入り、同駅下りホームには、国労の動員者約一〇〇名ないし三〇〇名位が群がっていた。そこで、同駅で交代乗務すべき電気機関士平野昌弘は、二〇日午前一時過ぎころ沼津機関区当直助役室において、赤堀当直助役に対し、「ピケ隊がおって乗務できない。」といゝ、同助役の前に時刻表及びハンドルを置き立ち去ったので、渡辺総務部人事課主席と前記佐藤主席は、前記動労沼津支部事務所に赴き、前記佐藤主席が岡本動労静岡地本書記長に対し、「駅ホームは、当局の対策要員と公安員が出動し、安全は確保されている。早く、三〇二九列車の乗務員を乗務させなさい。」と右平野を出動させるよう通告したところ、右岡本書記長から「危険かどうか、安全かどうかは、組合側で判断する。当局側の判断では駄目だ。乗務員はまだ出せない。」と拒否され、三回位やりとりを繰り返したが、そのうちに附近にいた動労組合員が、「いくらねばっても駄目だ。」「危くて我々の組合員を出せるか。」「早く帰れ、帰れ。」などと口々にわめき騒然となってきたので、やむなく同支部事務所を引揚げた。そして、当局は同日午前二時一三分ころ代替要員を乗込ませ同列車を所定より二時間五三分遅れて発車させた。

③ 九〇一列車関係

同列車は、所定は沼津駅二〇日午前一時二分三〇秒着で、乗務員交代のうえ同一時四分三〇秒発のところ、三時間九分遅れて午前四時一一分三〇秒ころ同駅に到着した。これより先、同日午前四時ころ沼津機関区当直助役室において、同駅で同列車に交代乗務すべき電気機関士大石末吉、電気機関助士志村敏文は、仕業点呼終了後、藤井当直助役から、「間もなく三島駅を発車するようだから、隣室で待機していて下さい。」と指示されたにもかかわらず、同室にいた同機関区機関士杉本光久が藤井当直助役に対し、「乗務できる状態ではない。」と放言し退室した際、右杉本に同行したまま、同列車に乗務しなかった。そこで、当局は同日午前五時九分三〇秒ころ代替要員を乗込ませ所定より四時間五分遅れて発車させた。

④ 二〇五三列車関係

二〇日午前一時一九分ころ、沼津機関区当直助役室において、電気機関士石川茂吉、電気機関助士西尾武は、赤堀当直助役に対し、「ピケ隊を排除してくれなければ、乗務できない。」といっているところへ佐藤係長がきて、同係長から下りのピケ隊を排除したから、乗務するよう指示されたが、「上りホームのピケ隊が、乗務員が列車に近寄ると、阻止に来るから乗務できない。」といゝ、佐藤係長から「責任をもって乗務させる。」といわれたのにもかかわらず、「ピケ隊全員を完全に排除しなければ危険だから、乗務しない。」といゝ、結局同列車に乗務しなかった。

ハ 九月二〇日闘争実施の結果

≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。

動労静岡地本の九月二〇日闘争実施の結果、次のような列車の運休及び遅延が生じた。

(1) 運休

(旅客列車) (貨物列車)

① 沼津地区 三   三

② 静岡地区 〇   四

③ 浜松地区 〇  二一

合計  三本 二八本

右のとおり、動労静岡地本の九月二〇日闘争実施の結果、旅客列車三本、貨物列車二八本が運休した。

(2) 遅延

(列車) (遅延時分)

① 沼津地区 二五(あき)    五〇分

三〇二九(団体臨時) 一一一分

九〇一(のと・やまと)五六分

② 静岡地区 一〇三(銀河)   一七分

合計  四本       二三四分

右のとおり、動労静岡地本の九月二〇日闘争実施の結果、急行旅客列車四本が一七分ないし一一一分遅延した。

(三) 本件闘争の中止に至る経緯とその後の経過

≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。

1 本件闘争の中止に至る経緯

昭和四三年九月一七日午後二時、労働省記者クラブにおいて、国労・動労は共同声明を発表し、組合側は国鉄当局に対しEL・DLの一人乗務の安全性に関し、医学的・心理学的・工学的見地より検討することを提案した。

国鉄当局は、これを受けて、安全問題が世論の注目の的となった以上、科学的・客観的な調査に委ねることが事態収拾の道であると判断し、条件次第でこれに応ずる態度を明らかにした。その後、これをめぐって労使交渉が繰り返された結果、同月二〇日午前五時四五分ころ安全問題を第三者の調査に委ね、その答申を尊重して団交を再開するということで、一応の妥協点に達した。

一方、そのころ国鉄当局と動労の後藤副委員長を中心として併行交渉に入っていた四三・一〇ダイヤ改正をはじめとする諸懸案事項の交渉も、逐次進展し、概ね同日午前七時の段階では妥結可能との見透しがつくに至った。

そこで、動労中央本部(中央闘争委員会)は、右の中央情勢ならびに、国労が同日午前五時五〇分段階で、同日午前六時三〇分をもってストライキを集約したいとの要請を行ってきていることなどを考慮し、同日午前七時をもって、休暇消化及びATS行動などを含む一切の諸行動について速やかに集約することを決定し、これを傘下の各地本に指令した。

2 その後の経過

その後、一人乗務の安全問題の調査委員として、労使の共同推薦で、東京大学医学部教授大島正光、青山学院大学理工学部教授高木貫一、大阪大学文学部教授鶴田正一、財団法人労働科学研究所々長斉藤一、東京大学工学部教授藤井澄二の五氏がその調査を依頼され、委員会の名称は、「EL・DLの乗務員数と安全の関係についての調査委員会」(略称EL・DL委員会)と決まり、調査事項としては、「労働科学、人間工学の面からみたEL・DLの一人乗務と二人乗務の作業などを条件別に比較検討し、それらの場合の安全性及びその確保についての必要条件」を審議することとなった。

EL・DL委員会(委員長大島正光教授)は、昭和四三年一〇月一八日の発足から昭和四四年三月二四日まで一五回にわたって委員会を開催したのをはじめ、各委員は随時意見交換、資料の検討を重ね、さらに科学的データを得るため、広島・岡山間で約二週間にわたり実地調査を行い、鉄道労働科学研究所の多数の資料、労使及び委員からの提出資料、延べ一五回にわたる添乗による調査等により慎重に検討した結果、昭和四四年四月九日調査報告書を提出した。

同調査報告書は、①一人乗務の現状について、②一人乗務、二人乗務の生理的負担についての比較、③一人乗務二人乗務と事故との関係、④乗務に関する種々の条件と一人乗務との問題、⑤機関士、機関助士の作業内容と機械化の問題についてそれぞれ記述したうえ、最後に結論として、「諸外国でEL・DLの一人乗務がかなり進捗していること、またわが国においても私鉄においては、主な路線においてほとんど一人乗務となっていること、国鉄のEC・DCはすでに古くから一人乗務であることなどを考えると、国鉄においてもEL・DLを一人乗務にする客観的条件は熟しているとみなければならない。」と述べている。

これにより、国鉄当局は安全問題は解決したものとし、同調査報告書において要望されている、より安全性を高める措置を考慮しながら、一人乗務の段階的実施を進めることとし、その実施計画を作成し、同年五月一二日これを各組合に提案した。

これに対し、国労は、「一人乗務実施については、原則的に反対の態度をとりつつも、調査報告書は不十分であるので、補足的に必要な調査を行い、労働条件について協議した後、実施することとしたい」との態度をとったが、一方、動労は、絶対反対の態度をとり、同月二七日から三〇日までストライキを行うなどの反対行動をとった。

しかし、国鉄当局は労使交渉を重ねた結果、動労との間で、試行的にハンプ押上機関車の一人乗務を実施することについての了解を得、この了解に基づき同年七月一〇日から郡山操車場等でハンプ押上機関車の一人乗務を実施した。そして、その後の労使交渉を経て、遂に同年一一月一日早朝、労使間で最終的な妥結をみるに至り、これに基づき、国鉄当局は、ハンプ押上機関車の一人乗務に続き、昭和四五年三月から貨物列車・旅客列車にも一人乗務を実施し始め、同年一〇月から主要線区においても逐次大部分の列車を一人乗務に移行させて行った。

(四) 国労との共闘について

≪証拠省略≫によれば、次の1及び2の各事実が認められる。

1 中央における国労と動労の打合せ会等

① 昭和四三年七月一〇日、動労中央本部は国労との打合せ会を開き、八月下旬から九月段階の闘いの組織化について意見の交換を行い、大筋について確認した。

② 同年八月六日、社会党国鉄合理化対策特別委員会第五回総会が開かれ、席上、動労・国労から、現在に至る五万人要員合理化粉砕の取組み及び今後の闘争目標と闘争計画などについて説明し、同総会はこれを了解した。

③ 同年八月一二日動労と国労とは、共闘打合せ会議を開き、今後の反合闘争の展開について、原則的に次の事項につき意見の一致を期した。

(ⅰ) 統一行動の設定については、概ね四日間とし、

第一次は、九月九日から一二日まで、

第二次は、九月一七日から二〇日まで、

とする。

(ⅱ) 統一目標については、助士廃止反対、電修職場の合理化反対等とする。

④ 同年八月一二日から一六日までの五日間、総評は定期大会を開催したが、この大会で、国労・動労が五万人反合闘争の展望と協力要請について、全代議員及び傍聴者にアッピール、要請文を交付し、また、動労・国労が企画し、交運共闘、公労協の各組合及び民間主要単産の協力を得て、「国鉄五万人要員合理化反対闘争に関する当面のストライキの支援について」の特別決議案を上程し、可決され、総評、県評、地区労が一体となってこれに取り組むことを再確認した。

⑤ 同年八月二一日、社会党・動労・国労の三者による五万人合対事務局担当者会議において、動労・国労の九月一二日、九月二〇日実施のストライキに対しては、国会議員を中心に参加するなど、社会党の全面的支援態勢を確立することなどを確認した。

⑥ 同年八月三〇日、動労中央本部は、第六次統一行動を中心とする共闘関係について、国労と打合せ会を開き、次の事項を確認した。

(ⅰ) 名古屋地本関係の三地区及び福知山地本関係の西舞鶴地区は、完全共闘とする。なお、福知山地区についても、国労側は努力する。その他の地区は、原則的に相互の支援態勢を確立する。

(ⅱ) ストライキ時間帯は、原則として共闘地区は零時より一二時間とし、細部の具体的事項については、現地で調整する。

2 国労静岡地本の拠点指定に伴う共闘申入と動労静岡地本の回答等

イ 国労静岡地本の拠点指定に伴う共闘申入とその回答

国労は九・二〇闘争について、同年九月一四日全国戦術会議を開催し、これまでの反合闘争は動労が主導権をとって進めてきたことにつき、国労の組織的な問題として論議され、九・二〇闘争において主導権をとらないと、主導権をとる機会がないとして、急遽東海道本線の東京・静岡等を拠点とすることを決定した。

そして、国労静岡地本は、右決定に基づき、沼津機関区・静岡運転所・浜松機関区をストライキ拠点に指定し、同年九月一六日動労静岡地本に対し、次のような共闘申入を書面をもってなした。

「EL・DL一人乗務に対する共闘申入について

EL・DL助士廃止検修新体制等をはじめとする合理化闘争は、九月一二日国労・動労共闘による名古屋・米原の各機関区をはじめとするストライキによるも、頑迷な本社当局は夜間継続乗務時間の検討と一人乗務のための車種の改良を提案するのみで、事態は一向に進展せず、情勢はまさに重大であります。

きたる九月二〇日第二波ストライキを前に東海道本線関係において、断固としたストライキを行うことが、問題解決の近道であることを認め、国労・動労共闘による指令をそれぞれの上部機関に対して要請するよう申入れます。

註 一〇月一日の第三波ストライキは、今日の情勢のなかで事実上困難性があるとの考えにたち、その繰り上げ実施を要請するものであります。

昭和四三年九月一六日

国鉄労働組合静岡地方本部

執行委員長 青木薪次

動力車労働組合静岡地方本部

執行委員長 堀武雄殿

この共闘申入に対し、動労静岡地方本部は動労中央本部と打合せのうえ、同年九月一八日国労静岡地本の小長谷執行委員に電話で次のような回答をした。

「動労としては、九・一二、九・二〇、一〇・一と今次反合闘争の拠点及び戦術を決定している。それに基づいて、各地本、支部は行動を展開しているので、現時点では変更できない。

動労静岡地本は、動労中央本部指令に基づき、二割休暇、ATS行動の強化を含む各支部とも必ず一個所以上を指定する遵法闘争及び踏切指定による安全運転を完全実施する。

よって、それぞれの立場で、九・二〇闘争を成功させるために全力を尽して成功を期するよう闘おうではないか。」

ロ 国労静岡地本沼津機関区分会等の共闘申入とその回答

(1) さらに、同年九月一八日国労静岡地本沼津機関区分会は、動労静岡地本沼津支部に対し、次のような共闘申入を書面をもってなした。

「申入書

EL・DL助士廃止反対を中心目標とする第三波闘争において、国鉄労働組合沼津機関区分会は、九月二〇日一二時間ストライキを決行することになりました。九月一二日の一二時間ストライキをもってしても進展をみなかった経緯から明らかなように闘いは一層の厳しさを要求されています。

この中で、中央における局面打開のための闘いの方針は、原則的に一致をみているところでありますが、闘いの具体的な行動において統一が実現されていないことは、極めて残念であります。

それぞれ独立した指令系統をもち、その規制の下に行動するのは当然でありますが、問題の重要性に鑑み、できうれば、貴支部の努力により現場における共闘を実現されるよう申入れる次第です。

昭和四三年九月一八日

国鉄労働組合沼津機関区分会

執行委員長 杉山英和

国鉄動力車労働組合

沼津支部執行委員長 殿」

この共闘申入に対し、動労静岡地本沼津支部は、翌一九日次のような回答を書面をもってなした。

「回答書

五万人反合第七次統一闘争第五波統一ストライキは、国労・動労共に全国各拠点において一二時間ストライキを決行することになり、貴分会においては、国労本部の決定により拠点に指定され、この闘いを成功させるために態勢確立に全力を傾注されている姿に対し、心から敬意を表します。

さて、貴分会からの申入書に対しては、基本的に異議のないところでありますし、貴分会からの申入以前に、当支部としては、第五波統一ストライキの完全共闘を実施すべく地方本部・本部に強く拠点追加申請を行ったところでありますが、御承知のように動力車本部は、去る八月二〇日全国代表者会議において、九・一二、九・二〇、一〇・一統一スト拠点を決定し、九月上旬事前に国労本部に同一拠点での完全共闘実現の申入を行い対処したところでありますが、国労本部は組織的実情と合理化問題は九月上旬集約したいとの回答により、九・一二の一部拠点以外は完全共闘できないとの回答に接し、極めて残念でありますが、現段階においては、我々沼津支部の努力にも拘らず、同一地点での完全共闘が実現不可能となりました。

然しながら、支部は本部指令に基づき、第六次統一行動(九月九日~一二日)において遵法闘争、安全運転、ATS扱い、年休闘争さらには現場長集団交渉、部内外の宣伝活動等を積極的に闘い、既に決定された第八次統一行動、第六波一二時間ストが一〇月一日に実施され、当沼津支部はその拠点に決定されているところです。従って、その時点における貴分会の協力方については、改めて申入れるつもりでありますが、差し当り九月二〇日の貴分会の一二時間ストを成功させ、反合闘争を勝利するために、当支部としては二〇日の零時を期して一斉に休暇闘争に突入し、乗務員の二割(出ヅラの五割)に達するまでストライキを実施致しますので、同日の零時より一六時まで一人の組合員も乗務させない強力な闘いを決行致しますので、当支部と貴分会に関しては実質的に共闘が実現できると確信致します。

よって、当地区における組合員同志の混乱等生じないよう万全の配慮をお願いし回答にかえます。

昭和四三年九月一九日

国鉄動力車労働組合沼津支部

執行委員長 長橋貢

国鉄労働組合

沼津機関区分会執行委員長 殿」

(2) 右国労静岡地本沼津機関区分会から動労静岡地本沼津支部に対すると同趣旨の共闘申入は、当時、国労の静岡・浜松の各分会からもそれぞれ動労の対応支部に対しなされ、これに対し右動労の各支部から国労の対応分会に対し、右動労沼津支部の回答と同趣旨の回答がそれぞれなされた。

ハ 国労静岡地本の拠点指定に対する動労静岡地本の戦術指導

国労静岡地本の沼津・静岡・浜松の各拠点指定に伴い、動労静岡地本は傘下の沼津・静岡・浜松の各支部につき特に対処する必要を認め、地本闘争委員会を開催する時間的余裕がないので、地方本部三役で九月一九日午後八時次のとおり決定し、これに基づき沼津・静岡・浜松の各支部を戦術指導した。

① 年休消化活動は、本部指令に従い所定のとおり行う。

② 右三箇所の折返し、または年休請求を行わない出区乗務員で、国労のピケ等により乗務できないと認められたときは、当直助役に通告し、その指示に従う。組合役員は、必ず右の乗務員に同行し、右行動の支援を行う。

③ 九・二〇遵法闘争の当局通告は、委員長が一括して当局の対策本部に通告し、各現地では通告を行わない。

3 国労静岡地本の九・二〇闘争とその結果

≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。

イ 国労静岡地本の九・二〇闘争における不参者と一部欠務者

(不参者) (一部欠務者)

① 沼津地区 二八  一一

② 静岡地区  三  一四

③ 浜松地区  四  三一

合計  三五名 五六名

右のとおり、国労静岡地本の九・二〇闘争における不参者は三五名、一部欠務者は五六名であった。

ロ 国労静岡地本の九・二〇闘争実施の結果

(1) 運休

(旅客列車) (貨物列車)

① 沼津地区 八  二一

② 静岡地区 〇   一

③ 浜松地区 一  一二

(うち動労との重複分三)

合計  九本 三四本(三本)

右のとおり、国労静岡地本の九・二〇闘争実施の結果、旅客列車九本、貨物列車三四本(うち動労との重複分三本)が運休した。

(2) 遅延

(列車) (遅延時分)

①  沼津地区

三〇三〇(団体臨時)  六〇分

三五〇M       三三分

②  静岡地区

二七(せと)     七分

一〇一(明星)    二〇分

③  浜松地区

七(富士)    一二分

三〇三〇(団体臨時)  五九分

二〇二(いせ・なち) 四八分

四七        八二分

九四四二        二八分

三〇四〇        三二分

合計 一〇本      三八一分

右のとおり、国労静岡地本の九・二〇闘争実施の結果、列車一〇本が七分ないし八二分遅延した。

第三本件解雇の無効原因について

一 公労法一七条、一八条は、憲法二八条に違反するか

(1) 憲法二五条一項は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と規定し、すべての国民に対し生存権を保障し、憲法二八条は、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」と規定して、勤労者のいわゆる労働基本権、すなわち団結権、団体交渉権、団体行動権(争議権)を保障している。憲法がこの労働基本権を保障した趣旨とするところは、中郵判決等が指摘するように、憲法二五条の生存権の保障を基本理念として、勤労者に対し人間に値する生存を保障すべく、憲法二七条によって勤労の権利及び勤労条件の保障をするとともに、使用者との関係において経済上劣位に立つ勤労者をして対等の立場に立たしめ、勤労者の経済的地位を向上させることを目的とするものである。

そして、このような労働基本権は、単に私企業の労働者のみについて保障されるものではなく、公共企業体等の職員はもとより、国家公務員や地方公務員も勤労者として自己の労務を提供して生活の資を得ているものである点において、私企業の労働者と異なるところはないから、原則的にはその保障を受けるべきものと解される。

しかしながら、労働基本権は、すべての国民に与えられた生存権に由来するものであり、勤労者の生存権を保障するための手段として保障されたものであるから、何らの制約をも許されない絶対的なものではないのであって、勤労者を含めた国民全体の生存権的利益(生存権の内容である健康で文化的な最低限度の生活を営む利益)の保障との関係からの制約を当然の内在的制約として内包しているものといわなければならない。そして、その内在的制約をどのように考えるかについては、左の四条件を考慮に入れ、慎重に決定する必要がある。

①  労働基本権の制限は、労働基本権を尊重し保障する必要と、国民全体の生存権的利益を確保増進する必要とを比較衡量して、両者が適正な均衡を保つよう決定すべきであるが、労働基本権が勤労者の生存権を保障するための重要な手段である点を考慮し、その制限は合理性の認められる必要最小限度のものにとどめなければならない。

②  労働基本権の制限は、勤労者の提供する職務または業務の性質が公共性の強いものであるため、その職務または業務の停廃が国民全体の生存権的利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについて、これを避けるために必要やむをえない場合についてなされるべきである。

③  労働基本権の制限に違反する行為があった場合、その違反者に対して課せられる不利益については、必要な限度を超えないよう十分配慮がなされなければならない。

④  職務または業務の性質上、労働基本権を制限することがやむをえない場合には、これに見合う代償措置が講ぜられなければならない。

(2) そこで、右の四条件を考慮に入れ、まず公労法一七条の規定が憲法二八条に違反するかどうかについてみるに、公労法一七条一項は、「職員及び組合は、公共企業体等に対して同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。又職員並びに組合の組合員及び役員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし、若しくはあおってはならない。」と規定する。公共企業体等の職員、すなわちいわゆる三公社五現業の職員については、それぞれの業務の性質によりその公共の強弱の程度に差異があることは明らかであるが、右の規定はこれを法文にそくして解釈する限り、その公共性の強弱にかかわりなく、すべての公共企業体等の職員について、一律に、しかも一切の争議行為を禁止したものと解釈するのほかはなく、かくて解釈する限り、労働基本権の制限は、その業務の性質が、公共性の強いものであるため、業務の停廃が国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるものについて、これを避けるため必要やむをえない場合になされなければならず、かつ合理性の認められる必要最小限度にとどめなければならないとする右の①及び②の要請を無視し、その限度を超えるものとして違憲の疑いを免れないであろう。

しかしながら、当裁判所は、都教組判決等と同じく、右の規定の表現にのみ拘泥してこれを違憲と断定する見解はこれを採らず、法律の規定は、可能な限り憲法の精神にそくし、これと調和しうるよう合理的に解釈すべきであるとの見解を採るものである。そして、かゝる見解の下に右四条件に従い公労法一七条一項を合理的に解釈すれば、同条項は公共企業体等職員の行う争議行為を一律に、かつ全面的に禁止したものではなく、公共企業体等職員の行う争議行為は、国民全体の生存権的利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものに限り、必要最小限度禁止したものと解すべきである。

(3) さらに、公労法一八条の規定が憲法二八条に違反するかどうかについてみるに、公労法一八条は、「前条の規定に違反する行為をした職員は、解雇されるものとする。」と規定するのであるが、これを文理解釈する限り、労働基本権の制限に違反する行為をした者に対して課せられる不利益については、必要な限度を超えないよう十分配慮されなければならないとする右の③の要請を無視したものというのほかなく、違憲の疑いを免れないものであるけれども、右の要請を考慮に入れたうえ、同条項を合理的に解釈すれば、同条項は右の違反行為をした職員を一律に必ず解雇すべきであるとする規定ではなく、解雇するかどうか、その他どのような措置をするかは、職員のした違反行為の態様・程度に応じ、公共企業体の合理的な裁量に委ねる趣旨と解するのが相当であり、職員に対する不利益処分は、必要な限度を超えない合理的範囲にとどめなければならないものとする趣旨に解すべきである。

(4) 以上のとおり、公労法一七条、一八条を合理的に限定解釈するときは、右の各規定を直ちに憲法二八条に違反するものと断ずることはできない。そして、右の④の代償措置の要請については、公労法は、公共企業体等とその職員との間に発生した紛争に関して、公共企業体等労働委員会によるあっせん、調停及び仲裁の制度を設け、ことに、公益委員をもって構成される仲裁委員会のなす仲裁裁定は、当事者双方を拘束するものとしているから、公労法一七条一項に違反した者に対し右のような民事責任のみを伴う争議行為の禁止をすることは、憲法二八条に違反しないものと解するのが相当である。

二 国鉄職員の争議行為に公労法一七条一項を適用することは、憲法二八条に違反するか

(1) 公共企業体等、すなわち三公社五現業の業務は、多かれ少なかれ公共性を有するのであるが、その公共性の程度は、それぞれの業務により強弱さまざまであり、しかも争議行為の種類・態様も多種多様のものがあるから、その争議行為の国民生活に及ぼす影響の程度は千差万別である。したがって、具体的にいかなる公共企業体の職員の、いかなる種類・態様の争議行為が、国民全体の生存権的利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるものとして、必要最小限度禁止の対象とされるかについて判別する必要があるわけである。

(2) そこで、まず、国鉄職員の行う争議行為は、国民全体の生存権的利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるかどうかについて考えるに、国鉄は国が国有鉄道事業特別会計をもって経営していた鉄道事業その他一切の事業を経営し、能率的な運営により、これを発展せしめ、もって公共の福祉を増進することを目的として設立された公法上の法人であって(日本国有鉄道法一条、二条)、その目的を達成するため、鉄道事業、これに関連する連絡船事業、自動車運送事業及びこれらの附帯事業の経営等の業務を行うものであるが(同法三条)、その資本金は政府が全額出資し(同法五条)、その総裁は内閣が任命し(同法一九条)、運輸大臣の監督を受け(同法五二条)、その予算は閣議の決定を経たうえ、内閣によって国の予算とともに国会に提出され、国会において国の予算の議決の例によって議決する(同法三九条の二、同条の九)ものとされている。

そして、国鉄の輸送業務の概況をみるに、≪証拠省略≫によれば、本件闘争の行われた昭和四三年当時における国鉄の営業キロは二〇、八二六・五キロメートルであるのに対し、私鉄のそれは、六、五九二・五キロメートルであり、同年度の国鉄の国内旅客輸送に占める割合(運輸機関別輸送人キロの輸送比率)は、四八・九パーセントであるのに対し、私鉄のそれは、二三・五パーセントであり、同年度における国鉄の輸送人員は、六、八六八、四九八、〇〇〇人、同輸送トンは一九二、五〇一、〇〇〇トンであって、昭和三五年から昭和四七年までの運輸機関別輸送人員、運輸機関別輸送人キロ、運輸機関別輸送トン数及び運輸機関別輸送トンキロの詳細は、別紙第3表の1、2及び第4表の1、2記載のとおりであることが認められる。

右によれば、国鉄がわが国の輸送力の主要な部分を占めていることは、明らかである。

原告らは、輸送人員において、私鉄が国鉄よりはるかに多く、また長距離輸送を主体とする航空機も年々増加してきており、国民が地域的移動をする場合、国鉄、私鉄、バス、航空機、船舶、その他の交通機関(自家用車等)から自由に一つを選べる立場にあり、その一つである国鉄の利用が不可能になることによる不利益は、そう大きなものではない旨主張するが、これは私鉄が主として通勤電車用の短距離輸送を業務内容とするのに対し、国鉄は主として全国的規模にわたる長距離輸送を独占的に業務内容としていることを直視しないことによるものであって、このことはさきに認定したとおり、昭和四三年における運輸機関別の国鉄と私鉄との輸送人キロ(旅客輸送人員に、その乗車した距離を合せて考えるもので、各旅客の乗車した距離を全部合計したもの。例えば旅客一〇人が五〇キロメートル乗車すると五〇〇人キロとなる。)を比較した場合、その比率は、国鉄が四八・九パーセントであるのに対し、私鉄はその半分にも満たない二三・五パーセントに過ぎないことからも明らかであり、また国鉄の利用が不可能になることによる不利益は、そう大きなものではない旨の主張が正当でないことは、昭和五〇年一一月二六日から同年一二月三日まで国労・動労によって行われたいわゆるスト権ストの影響をみても極めて明瞭であって、右原告らの主張は到底首肯することができない。

したがって、国鉄の業務は公共性が強く、国鉄職員の行う争議行為が、その種類・態様・規模等のいかんによっては、国民全体の生存権的利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあることは、疑いのないところであって、その争議行為に公労法一七条一項を適用し、これを禁止することが、憲法二八条に違反するものでないことは明白である。

三 本件闘争は公労法一七条の禁止する争議行為に該当するか

1 判断基準

国鉄職員の行う争議行為が、その種類・態様・規模等のいかんによっては、国民全体の生存権的利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあることは、前示のとおりであるが、具体的にいかなる争議行為が、公労法一七条によって禁止されるべき争議行為に該当するかについては、その種類・態様・実施時間の長短・実施範囲の広狭・運行を阻害される列車の種類・本数等を考慮して判断すべきであるが、つまるところ、その争議行為を禁止することによって保護しようとする国民全体の生存権的利益とその争議行為を是認することによって国鉄職員の受ける利益との比較衡量により、両者を適切に調整し、その均衡を保たさせる見地から、その目的・種類・態様・規模・影響等を総合勘案して決定しなければならない。

2 本件闘争の目的

そこでまず、本件闘争の目的についてみるに、前記認定のとおり、本件闘争は主として被告の五万人合理化計画に反対する目的で実施されたものである。すなわち、被告は国鉄の近代化・合理化に関し、昭和三二年第一次五か年計画、昭和三六年第二次五か年計画、昭和四〇年第三次長期計画と逐次実施に移し、昭和四二年三月末いわゆる五万人合理化計画を各組合に提案したところ、各組合がEL・DLの一人乗務に強く反対したため、各組合と延べ六六回(国労二二回・動労二五回・鉄労一九回)に及ぶ交渉を重ねたが、組合側は主として安全問題に固執して反対の態度をとり続けた。これに対し、国鉄当局は、諸外国におけるEL・DL一人乗務の実状・わが国私鉄の一人乗務・乗務員数と事故との関係などの詳細な資料を提供して一人乗務の妥当性を訴え、一方ではEL・DLの一人乗務化により過剰となる助士の処置についても原則として機関士に登用することを明らかにして職員の不安解消に務め、また一人乗務の際の労働条件の改善についても組合側に提案して交渉の進展を図るべく努力したが、組合側はこれに納得せず、昭和四二年一二月一五日、昭和四三年二月一日から同月一〇日まで、同年三月二日から同月二三日までの間と数次にわたる合理化反対闘争を実施した後、遂に本件闘争に突入するに至ったものである。そして、本件第七次全国統一行動実施中の昭和四三年九月一七日、国労・動労は、EL・DLの一人乗務の安全性に関し、医学的・心理学的・工学的見地より検討することを提案し、同月二〇日午前五時四五分ころ安全問題を第三者の調査に委ね、その答申を尊重することで、国鉄当局と一応の妥協点に達したので、各組合とも闘争を中止することになり、動労は同日午前七時をもって本件闘争を中止した。

そして、国労・動労が主として問題としていたEL・DL一人乗務の安全性については、東京大学医学部教授大島正光、青山学院大学理工学部教授高木貫一、大阪大学文学部教授鶴田正一、財団法人労働科学研究所々長斉藤一、東京大学工学部教授藤井澄二の五氏によって構成されたEL・DL委員会により、「諸外国でEL・DLの一人乗務がかなり進捗していること、またわが国においても私鉄においては主な路線において、ほとんど一人乗務となっていること、国鉄のEC・DCはすでに古くから一人乗務であることなどを考えると、国鉄においてもEL・DLを一人乗務にする客観的条件は熟しているとみなければならない。」との結論が出され、その後紆余曲折を経て最終的に解決され、逐次一人乗務に移行されていったものである。

このように、国鉄当局のEL・DL一人乗務の提案については、結果的にはそれが認められて実施されるに至ったものであり、しかも、右のとおり本件闘争が合理化反対という同一目的による数次の闘争の繰り返しの末、さらに実施されたものであることなどをも考え合せると、組合側がいたずらに争議行為を反覆累行して自己の主張を貫徹しようとすることなく、安全問題に関し第三者の調査に委ねる解決方法を早期に提案していたならば、本件闘争はもとより、その前に実施された合理化反対闘争も避けられたのではないかとの感を払拭し去ることができない。

一方、国鉄当局が前記のとおりEL・DLの一人乗務の妥当性につき詳細な資料を提供するなど、組合側を説得するため種々努力したことはこれを認めるにやぶさかではないが、結果的には右のような第三者の構成による調査委員会を設置して解決していることからすると、早期に自らその設置を提案してその解決を図ってほしかったとの感もしないではない。

いずれにしても、組合側が本件闘争の最大の目的としたEL・DL一人乗務の反対について、右のとおり結果的にその妥当性が是認されなかったことは、本件闘争についてそれなりの評価を受けてもやむをえないところである。

3 本件闘争の種類・態様・規模・影響等

(1) 線見拒否闘争

前記認定のとおり、被告静岡鉄道管理局は、昭和四三年七月一七日、同年一〇月ダイヤ改正の機会に、浜松駅・稲沢駅間の貨物列車運転を、浜松駅・米原操車場間の貨物列車運転に変更する計画を原告組合静岡地本に提示したところ、動労静岡地本は、浜松駅・米原操車場間の貨物列車運転が機関士二人乗務を必要とするロングランであり、労働条件が改悪され、かつ運転保安上にも問題があるとして反対した。しかし、当局側は、これは被告と原告組合との間に昭和三六年七月三一日締結された「動力車乗務員の一継続最高乗務キロ及び同時間に関する協定」で定められた範囲内の変更であるとして、昭和四三年九月七日動労静岡地本に対し、稲沢駅・米原操車場間の線路見習の実施方法を提案し、同月七日、九日、一三日、一四日、一五日と交渉を重ねたが、意見対立のまゝ妥結点を見出せなかったため、当局は同年一〇月一日のダイヤ改正までに約二〇ないし三〇名の乗務員に線路見習をさせなければならない立場上、同年九月一五日午後一時すぎころ交渉を決裂とし線路見習を同日より実施する旨を動労静岡地本に通告した。そこで、動労静岡地本は、中央本部の指令に基づき、傘下の各支部執行委員長宛に、①指導員に対し、線路見習の業務命令が出たときは、直ちに支部に連絡し、支部役員立会のうえ業務命令を拒否し、線路見習以外の仕事を行う。②指導員以外の該当者に線路見習の業務命令が出たときは、直ちに支部に連絡し、これを拒否し、可能な限り年休で処理する等の指令を発した。

そして、右指令に基づき同年九月一七日には線見該当の一般乗務員鈴木俊男が、同月一八日には線見該当の一般乗務員竹山玉男がそれぞれ年休を請求して線見に参加せず、また同日指導員青野専一は動労静岡地本の組合員らによる執拗な線見拒否の説得を受けた結果、前記のとおり線見を実施途中で拒否した。

しかし、国労静岡地本は線見実施に反対することなく参加し、動労静岡地本も同月二四日交渉の結果、線見実施につき了承し、同日より線見実施に応じたので、同年一〇月一日のダイヤ改正には、何らの支障も生じさせずにすんだ。

(2) ATS闘争

ATS闘争とは、前記認定のとおり動労が国鉄当局の制定した運転取扱基準規程(本社基準規程)三六四条、三六五条について、国鉄当局の解釈とは異なった独自の解釈をし、駅のホームに列車を進入させる際、出発信号機のロングの警報点でATS(自動列車停止装置)の警報の表示があった場合、「確認扱い」をすることなく直ちに列車を停止させることにより、駅のホームの途中ないしはホームにかからない辺りで列車を停止させるという平常の運転方法とは異なった運転方法をとるものである。

原告らは、前記のとおり右本社基準規程三六四条、三六五条について独自の解釈をしたうえ、この解釈を前提として、これと牴触する中部支社運転取扱基準規程は効力を有しないから、ATS闘争は乗務員に課せられた義務規定の遵守であるので違法ではない旨主張するが、前記認定のとおり、国鉄当局は昭和四三年二月二七日右本社基準規程三六四条、三六五条を前記のとおり改正したのに伴い、前記昭和四二年八月八日事務連絡を廃止し、当時その旨を原告組合に通告し、以後国鉄当局の解釈に基づく運転指導をしてきたのであり、ATS闘争は国鉄当局が制定した前記本社基準規程について国鉄当局の解釈に従わず、原告組合独自の解釈をすることによって平常の運転方法とは異なる運転方法をとるものであって、列車の運転方法につきこのような勝手な解釈をすることは、規程等管理規程二四条一項の「規程等の解釈の疑義は、その規程等に特に定める場合を除き、制定者が解明する。」との規定をまつまでもなく、もとより許されないものといわねばならない。そして、国鉄当局の右解釈に従えば、本社基準規程と中部支社運転取扱基準規程とは、その点に関する限り何ら牴触するところはないのである。それゆえ、原告ら主張のように、ATS行動が乗務員に課せられた義務規定を遵守した行為であるとは、到底いうことができないのみならず、右のとおり、ATS闘争は、国鉄当局の解釈・指示に従わず、独自の解釈をして勝手な運転方法をとった点において、単なる労務の提供の拒否ではなく、被告の業務を自己の支配下に置いて管理したものというを妨げないのであって、このような行為は憲法二八条によって保護される団体行動権の行使とは認めることができない。したがって、その規模・影響等を考慮するまでもなく、ATS闘争は公労法一七条一項の業務の正常な運営を阻害する行為として禁止された争議行為に該当するものといわなければならない。

そして、動労静岡地本が右のように違法なATS行動を実施したことにより、本件闘争期間中の昭和四三年九月一五日から同月二〇日までの間に、沼津・静岡・浜松の各駅を通じ、延べ一〇六本の列車が、駅のホームの途中ないしはホームにかからない辺りで停止し、進行の手信号による誘導を受けたのである。

(3) 休暇闘争

① 前記認定のとおり、動労静岡地本は第七次全国統一行動期間中の昭和四三年九月一七日から同月一九日までの間に、浜松機関区において、延べ一六名の動力車乗務員が無断欠勤または年休を請求して当局の承認を得ずに欠勤し、その結果同月一七日貨物列車二本が運休した。

② そして、前記認定のとおり、動労中央本部より同年九月一六日発せられた「各地方本部は九月二〇日全乗務員を対象に職名別、車種別、業務部門別に二割の休暇消化を完全に実施すること。」との指令に基づき、第七次全国統一行動の最終日である同年九月二〇日、動労静岡地本は二割休暇闘争を実施し、沼津機関区・静岡運転所・浜松機関区を通じ、合計六五名の動力車乗務員が無断欠勤または年休を請求して当局の承認を得ずに欠勤し、静岡運転所・浜松機関区を通じ、合計一九名の動力車乗務員が当局の承認を得ずに一部欠務し、沼津駅においては合計六名の動力車乗務員が国労組合員によるピケを理由に列車乗務を拒否し、その結果、沼津・静岡・浜松の各地区を通じ、旅客列車三本、貨物列車二八本が運休し、急行旅客列車四本が一七分ないし一一一分遅延したのである。

4 全国的規模の反合理化闘争の一環としての本件闘争

ところで、争議行為が公労法一七条一項の禁止する争議行為に該当するかどうか、換言すれば当該争議行為が客観的に公労法一七条一項により違法とされるかどうかは、当該争議行為をなした者の責任の範囲の問題(どの範囲の争議行為について責任を負うかの問題)とは、別個の問題であるから、これと切離して考えるべき事柄であり、当該争議行為者の行った争議行為の結果のみをみて、その争議行為が公労法一七条一項の禁止する争議行為に該当するかどうかを判断すべきものではない。すなわち、本件闘争のように、それが全国的規模の反合理化闘争の一環として行われた場合においては、その全国的規模の反合理化闘争全体に着目して、それが客観的に公労法一七条一項の禁止する争議行為に該当するかどうかを決定しなければならない。

本件全国的規模の反合理化闘争は、前記認定のとおり、動労が第二〇回定期全国大会において、昭和四三年度の主要目標を五万人要員合理化粉砕等におき、反覆ストライキを含むあらゆる実力をもって目的貫徹まで断固闘い抜く旨の基本方針を決定し、これに基づき第五七回臨時中央委員会及び全国代表者会議において決定された①遵法闘争等を中心とする第六次全国統一行動(九月九日から一二日まで)、②名古屋・北陸・福地山・米子の各地本を中心に関連する大阪・静岡・岡山の各地本の第四波全国統一 一二時間ストライキ(九月一二日)、③第六次統一行動をさらに強化した第七次統一行動(九月一七日から二〇日まで)、④札幌・仙台・広島の各地本を中心に関連する青函・盛岡・高崎・新潟・水戸・岡山の各地本の第五波全国統一 一二時間以上ストライキ(九月二〇日)など、全組合員が必ず一度は参加する文字どおり動労の命運をかけた全国統一行動として、九月二〇日午前七時の中止指令まで、次々と実施されたものであり、しかも、九月九日から一二日までと九月一七日から二〇日までの第六・七次全国統一行動は、国労と打合せのうえ国労と同一時期を設定して実施されたものであって、それが国民生活に及ぼした影響は、絶大なるものがあったものと推認される。

動労静岡地本の実施した本件闘争による列車の運行阻害の実状は、前記認定のとおりであるが、本件闘争は、その目的・種類・態様・規模・影響等を考慮し、右のように大規模な全国統一行動の一環として実施されたものであることをも総合勘案すれば、公労法一七条一項で禁止された業務の正常な運営を阻害する行為に該当するものと認めるのが相当である。

四 原告堀の行為は、公労法一八条を適用すべき場合に該当するか

原告堀は、前記認定のとおり、五万人要員合理化粉砕等の目的貫徹まで、反覆ストライキを含むあらゆる実力をもって断固闘い抜く旨の基本方針を決定した第二〇回定期全国大会に代議員として出席し、さらにこれに基づき昭和四三年九月九日から一二日までと、同月一七日から二〇日までを第六・七次全国統一行動として設定し、この期間に全乗務員の安全運転・年休消化運動・業務切捨て等を含む強力な遵法闘争と半日以上ストライキを配置させることを決めた第五七回臨時中央委員会にも中央委員として出席し、いずれもこれに反対したとの主張も証拠もないからそれらの決定に賛成したものと推認され、右全国的規模の違法な争議行為を計画・決定した重要な会議に参画しているのみならず、動労静岡地本執行委員長として、かつまた地本闘争委員長として、動労静岡地本の前記地方大会・支部代表者会議・地本闘争委員会等において、指導的役割を果して本件闘争の企画・立案・決定に重要な影響を及ぼし、しかも本件闘争を傘下の各支部執行委員長に指令するなど本行闘争の実施につき動労静岡地本の役員をしてその指導に当らせたものとみられるのである。それゆえ、原告堀の右行為は、公労法一七条一項後段にいう違法な争議行為を共謀し、そそのかし、あおった行為に該当するものというべきである。

右のとおり、原告堀はいわば動労静岡地本の本件闘争を計画・実施した最高責任者ともいえる立場のものであるから、違法な争議行為によって前記のとおり沼津・静岡・浜松地区において被告の業務の正常な運営を阻害したものと認められる以上、公労法一八条を適用され、解雇されるのもやむをえないものといわねばならない。

五 不当労働行為の主張について

原告らは、本件解雇は原告堀の平素からの組合活動を嫌悪してなしたものであり、原告組合を弱体化させ、支配介入しようとする意図のもとになされたものであるから、不当労働行為である旨主張するが、これを認めるに充分な証拠はない。すなわち、≪証拠省略≫によると、従来地方本部の役員で争議行為を理由に解雇されるのは、闘争拠点となった地方本部の役員一、二名であり、闘争拠点以外の地方本部の役員で解雇されるのは稀有であることが認められるが、しかしこのことから直ちに、同原告に対する本件解雇が、同原告の組合活動を嫌悪してなしたものであり、原告組合を弱体化させ、支配介入しようとする意図のもとになされたものと認めることはできない。

六 解雇権の濫用の主張について

公労法一八条の規定が、同法一七条一項違反の争議行為をした職員を一律に必ず解雇すべきであるとする規定ではなく、解雇するかどうかは職員のなした違反行為の態様・程度に応じ、合理的な裁量により決すべきものとする趣旨であることは、前示のとおりであるが、原告堀は前記のとおり本件全国的規模の違法な争議行為を計画・決定した重要な会議である第二〇回定期全国大会及び第五七回臨時中央委員会に参画しているのみならず、動労静岡地本委員長として、かつ地本闘争委員長として、前記のような被告の業務の正常な運営を阻害した本件闘争を企画・決定・実施するにつき指導的役割を演じた動労静岡地本における最高責任者であるから、本件解雇をもって合理的な裁量の範囲を逸脱した解雇権の濫用であると認めるのは相当でない。

原告らは、本件解雇理由は極めて抽象的で具体性を欠き、かかる不明確な理由による本件解雇は、雇傭契約関係を律する信義誠実の原則に反するし、また、解雇理由に摘示されている行為は、労働基準法もしくは運転法規を遵守した行動として正当である旨主張するけれども、本件解雇理由が、「このたび国鉄動力車労働組合は、九月一五日から一九日にわたり、浜松機関区において、ダイヤ改正に伴う線路見習に反対し、また九月一九日から二〇日にわたり沼津・静岡及び浜松地区において、いわゆる九・二〇闘争を実施し、これにより多数の列車が運転休止及び遅延するなど業務の正常がいちじるしく阻害され、旅客・公衆に多大な迷惑を及ぼす事態が発生しました。貴殿は国鉄動力車労働組合静岡地方本部執行委員長として当局の警告を無視し、同役員をして本闘争の指導にあたらせるとともに、自らも本闘争を計画・実施した総責任者であるので、公共企業体等労働関係法第一七条一項に該当するものと認められますから同法第一八条により、本日ここに解雇いたします。」という内容であることは、当事者間に争いがないところ、右解雇理由は原告ら主張のように極めて抽象的で具体性を欠いているものとは認められないから、信義則に反するとはいえないし、また有給休暇を違法な争議行為に利用することは許されないから、休暇闘争が労働基準法を遵守した行動とはいえず、ATS行動が運転法規を遵守した行動といえないことは、前説示したところにより明らかであるから、右原告らの主張は、これを採用することができない。

七 結び

以上認定したところからすると、被告と原告堀との間の雇用契約関係は、本件解雇の意思表示のなされた昭和四三年一〇月二八日消滅したものというべく、したがって、原告堀の請求は、理由がないものといわねばならない。

第四結論

よって、原告組合の訴は不適法であるからこれを却下し、原告堀の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松岡登 裁判官 人見泰碩 裁判官 渡辺壮)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例